AI で製品開発:工場に渡した先で詰まる場所
AI が実際に削ってくれるのはどこか
製品開発を分解すると二つの段があり、この二つは性質がまったく違います。
前半は言語と反復で積み上がります。要求の整理、仕様のドラフト、工業デザインの案出し、初版 BOM、テスト計画、ドキュメント。ここは AI が本当に片付けました。以前は小さなチームで数週間かかった作業が、いまは午後いっぱいで形になり、しかも初稿の水準は上がっています。
後半は物理とリードタイムで積み上がります。鋼材、EMC 暗室、認証の順番待ち、部品のアロケーション、ファスナーの一万回目の開閉。こちらは一日も減っていません。減りようもありません。そこで詰まる原因は「答えをどれだけ速く書けるか」ではないからです。
要点はこの落差にあります。前半だけが速くなり後半は動かなかったので、ブランドと工場の受け渡しは実質的に前倒しになり、しかも渡ってくるものは以前より完成して見えます。
完成して見えるのに検証されていない三つの成果物
仕様書。 AI は読みやすい仕様を一時間で書きます。読みやすさは凍結とは違います。完成して見えるのに三か月目でまだ動いている仕様は、明らかに未完成な仕様と同じだけのコストがかかり、しかも決着済みの顔をしている分やっかいです。
工業デザイン。 レンダリングはほぼ無料になりました。ただしレンダリングは抜き勾配を知りませんし、肉厚も、パーティングラインの通し方も、エジェクタピンの位置も知りません。美しくて成形できない形状と、美しくて成形できる形状は、同じ速度と同じ自信で出てきます。出力そのものは、どちらを手にしているか教えてくれません。
BOM。 もっともらしい BOM を作るのは簡単で、載っている部品はどれも実在します。ただしそれを全部、必要な数量で、必要な期間内に買えるかどうかは別の話です。そしてその別の話が、発売できる時期を決めます。
どれも AI を使うなという話ではありません。手元にあるものが何なのかという話です。かつてない速度で作られた仮説であり、まだ何にも当てられていません。
どれだけ自信を持って書かれていても、物理は取り合わない
構造化されたレビューの価値はここにあり、三年前より価値は上がっています。もっともらしく見える入力が増えたからです。
鋼材に触れる前に DFX レビューを必ず一度通します。チェック項目は 33。各項目を赤、黄、緑で判定し、赤が一つ出たら案件を止めます。 後で見る、ではありません。止めます。
ある携帯型 UV-C ソフトバッグ製品では、このレビューで 赤が六つ 出ました。EMC プレスキャンを量産前から EVT 試作の二週間後に前倒しすること。防水ファスナーに 10,000 回の開閉試験を追加すること。IEC 62471 の漏光試験を予定に入れること。安全インターロックを一系統ではなく、リードスイッチとファームウェアの二重にすること。リードタイム 8 から 12 週の 275nm UV-C LED にセカンドソースを立てること。そして USB 直給電の構成をやり直すこと。UN38.3 と IEC 62133 を丸ごと迂回していたためです。
AI が起こした設計が、人が起こした設計よりこのレビューで落ちやすいということはありません。落ちる場所も理由も同じです。違うのは、なぜ落ちるべきでないかを説明する、より整った文書が添えられてくることだけです。
→ 手法と事例の全体:金型を切る前の DFX リスクレビュー
誰にも短くできないリードタイム
BOM は金型の前に必ず供給リスクの格付けを通します。格付けは、美しい設計がカレンダーとぶつかる場所です。
同じ UV-C 案件の結果はこうでした。275nm UV-C LED は赤。特殊仕様、リードタイム 8 から 12 週、単一ソース。UV 耐性の反射布とファンは黄。防水ファスナーは緑。単一ブランドですが安定していて、六週前に発注。PCBA と MCU は緑。二社二プラットフォーム。
赤が一点あれば、それが製品全体の日程を決めます。六週間分の仕様作業を二日に圧縮したうえで十二週のリードタイムの部品を選んだなら、六週間は浮いていません。待ち時間を見えにくい場所に移しただけです。
→ 四つの格付け軸と各段階で走る対応:OEM 案件の部品供給リスクマトリクス
可逆だった判断が鋼になる瞬間
金型の前なら何でも直せます。後はそうはいきません。図面の修正は半日、鋼材の修正は数週間と五桁、顧客の手元にある製品の修正はリコールです。
この瞬間を支配する数字が二つあり、それはちょうど AI がブリーフから推測できない二つです。年間予想数量と対象市場。数量がキャビティ数を決め、キャビティ数が金型費を決めます。対象市場が認証ルートを決め、認証ルートが、いま生成したその BOM のどの部品がそもそも使えるかを決めます。
美しい仕様を持って来ても、この二問に答えが出ていないなら、自動化できたのは易しいほうの半分だけです。
→ キャビティ数、金型鋼材、段取り替えの経済性が見積もりになるまで:OEM 案件の金型費用と MOQ
よい受け渡しはどんな形か
AI が入ってから実際に差がついているのは、浮いた時間を幅に使うチームです。前半をどれだけ速く走ったかは、あまり効いてきません。
方向を三つ持って来てください。 三案をそれぞれレビューに掛けられる水準まで詰めることは、以前は割に合いませんでした。いまは合います。レビュー表の上で二案を落とすコストは、金型を起こしてから一案を落とすコストの端数です。
結論だけでなく前提も持って来てください。 AI が書いた仕様で本当に効くのは、ある選択の背後にある理由であることが多く、そこが静かに間違っている確率も一番高い場所です。書かれた前提はエンジニアが検証できます。書かれなかった前提は誰にも検証できません。
仕様の凍結はもっと早くしてください。 反復が速いと、いつでも開き直せる気がして仕様を開けたままにしがちです。金型の前なら安く、後なら惨事です。
レビューは遅いままにしてください。 前半と同じ比率で設計レビューも圧縮したくなります。ですがこの仮説が鋼に当たる前に現実へ当ててもらえる機会は、レビューのこの一回だけです。
→ 五つの段階と、それぞれで表に出る失敗:OEM 製品開発はどこで壊れるか
AI が作った設計を渡す前に聞く三つの質問
- 「この仕様のうち、人間が一度も目を通していないのはどこですか」 リスクがどこに集中しているかの地図になります。
- 「この BOM で一番不安な部品はどれで、それはなぜですか」 工場側が本当に設計を読んだかどうかが分かり、発売時期を決めるリードタイムも一緒に出てきます。
- 「私の案件を、どのステージゲートで止めますか」 一度も案件を止めたことのないパートナーは、一度も誰かを守ったことがありません。
当社は ISO 13485:2016 と ISO 9001:2015 の品質システムのもとで生産しています。設計、金型、PCB および PCBA 設計、SMT、組立はすべて台中の同一拠点にあり、1996 年からここにあります。設計変更が外注先の順番待ちに入ることはなく、量産までに三回直す必要のある設計なら、三回直します。
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